鎌倉一の和菓子屋さんとの呼び声も高い「美鈴」さん。若宮大路の東側を並行にはしる小町大路から一本路地を入った場所のさらに奥まったところにあって、木の電柱に掲げられた控えめな看板も老舗感を演出します。
「浄妙寺・喜泉庵」さんにてお抹茶のお供にいただいたのが美鈴さんの上生菓子との出会いで、枯山水のお庭を眺めながら”季節”をいただくという、それはそれは素敵な美鈴さんのお菓子との出会いでした。とても素敵な和菓子を自宅でも味わいたいと連絡先をお聞きして伺った際には、女将さんから「おつかもん(お使い物)ですか?」と。「どなたかへお土産ですか?」「プレゼント用ですか?」といった表現よりもとっても上品で、こういった素敵な表現が未だに活き活きと生活の場で使われている、ということが古都鎌倉にいることを強く実感させてくれます。まさに「UNIQUELY鎌倉 = 鎌倉ならでは」な体験です。
「季節の上生菓子」の他にも、「羊羹」や月変わりの「季節のお菓子」がありこのどちらもお勧めの品です。基本は予約販売で、飛び込みでいらっしゃるお客さまへいくつか余分に用意してありますが、賞味期限が短いものばかりですから沢山つくる訳にもいきません。必ず手に入れたい場合は事前に電話予約をお願いします。
手に入らなかったけれどどうしても、という場合は美鈴さんから若宮大路へ抜ける路地の途中にある「大仏茶楼(おさらぎさろう)」さんや、前述の「浄妙寺・喜泉庵」さんにて上生菓子をいただけます。
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美鈴 |
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〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町3-3-13 |
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鎌倉駅東口から徒歩15分弱。迷わず行くには若宮大路から鶴岡八幡宮へと向かい、八幡様直前を右折します。突き当たりに宝戒寺がありますので、そこを右折。ひとつめの路地を左に折れると電柱の上の方に美鈴さんの看板があります。 若宮大路と小町大路の間の路地はとっても狭くて風情がありますから、地図アプリをナビにして路地散歩するのもお勧めです。 |
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9:00 〜 17:00 |
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火曜日 |
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0467-25-0364 |
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なし |
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2006年に発売された「美味しんぼ 95巻」には美鈴さんと2月のお菓子「をさの音」が登場します。普段は知ることのできないをさの音の作り方や美鈴さんの縁起などを垣間見ることができます。美鈴ファンには必読の一冊。
写真:美味しんぼ95巻 第3話「ゴボウの教え」p.173
練り切りを中心に、季節のお菓子がはいります。何が入っているかは箱を開けてのお楽しみ。鎌倉の老舗和菓子屋が演出する季節感をお楽しみください。
お正月のお菓子「花びら餅」。年が明けたばかりのおめでたい席でいただくお菓子ですからご購入いただけるのは年末の数日間のみ。新年の準備に美鈴さんの「花びら餅」をわすれずに!必ず事前に予約してくださいね。
美鈴さん、1月のお菓子は雪の中に咲く梅の姿をお菓子で模った「雪中の梅」。ふわふわな淡雪羹(あわゆきかん)のまるでミルクを口に含んだ時のような優しい甘さに、梅の形の練切のしっかりした甘さがアクセント。美鈴さんのお菓子は新鮮な驚きをいつも与えてくれます。
機織り機の糸巻きの形を牛蒡(ごぼう)を芯に見立て餡で包むことで見事に表現したお菓子。こちらのお菓子は「美味しんぼ」でも取り上げられたほど。花びら餅同様、牛蒡(ごぼう)の繊維質な食感が甘い和菓子にアクセントを加えます。
黒蜜をかけていただくわらび餅とは違って、白玉粉と砂糖、漉し餡を使って作るのが美鈴さんの「わらび餅」の特徴です。箱をあけると、たっぷりのきな粉がまぶされた、やっと一口で頬ばれる大きさのわらび餅が整然と並びます。高名な作家さんがファンだったという美鈴さんのわらび餅ですが、子供にも大人気。
4月のお菓子は「蝶の谷戸(ちょうのやと)」。
鎌倉の街は山々に囲まれています。大通りを外れて山側へと路地を進んでいくとどの路も段々と細くなり、山々に挟まれた谷の奥へ奥へと進んでいくことになります。この山々に挟まれた谷状の地形が「谷戸」。その緑あふれる谷戸に舞う蝶々を表現した和菓子。鎌倉ならでは、です。
少しずつ暑さを感じる日も増えてきました。そんな時期の季節のお菓子は「昇鯉」。知らずに開封したの際には、鮮やかすぎるほどの水色は驚きを与えてくれます。
水色に染められた求肥は、清流の滝をイメージ。その滝の中に散りばめられた蜜で煮た豆は、その滝を昇る鯉。お皿の上の清流から、新緑の間を吹き抜けてきた爽やかな一陣の風を感じるようです。
ゆっくりと枯山水のお庭を眺めながらいただきたい季節のお菓子です。
人生を豊かに生きる秘訣は想像力ですね、としみじみ感じるこの頃です。
鎌倉は寺院をはじめ個人宅にも梅の木が多く植えられていて、紫陽花が見ごろを迎える頃、各家庭では梅の実を梅干しや梅酒に仕込む「梅仕事」に精を出します。美鈴さんのすぐ近くにある宝戒寺にも梅の木が多く植えられており、青々とした果実が実ります。
そんな6月のお菓子は「青梅」です。名前の通り青梅をかたどった、ころんとした可愛らしい形。口に入れると甘じょっぱい塩飴のような風味。でも、一口に飲み込んでしまうのは勿体ない。少しずつ、口の中で餡がとろけるように味わうと、ほのかに感じる梅の香りと小さく刻まれた梅の実に気が付きます。実は五年前に漬け込んだ自家製の梅干しを「うめびしお」にしたものが青梅色の餡に練り込まれているのです。梅雨の暑さと湿度にも負けないお菓子なので、暑い日に冷たい飲み物と一緒に頂いても良いですね。御朱印でお寺を巡りながら熱中症対策…なんていう粋な楽しみ方もどうでしょう。数に限りがあるので、事前に電話で予約をしておくと確実です。
美鈴さんの上生菓子をお茶とともに供する「浄妙寺・喜泉庵」さんにて、いかにも涼しげな錦玉羹(きんぎょくかん)をいただいていましたから、7月のお菓子もさぞ涼しげなコンセプトのもの!、と勝手に思い込み期待していました。ですから、包みを開けた瞬間の「鳩が豆鉄砲食らった」私の顔は、その様子を誰か見ている人がいたら思わず笑いだしていたことでしょう。
7月のお菓子「文月」は、麦を粉末にした麦焦がしを使った「押物菓子」です。麦が収穫されるのは6月ということですから、いわゆる旬の物ということになるのでしょうね。口いっぱいに夏の肥沃な大地の香りが広がります。中の小豆漉餡(あずきこしあん)も水分少なめで口中の水分を奪ってゆきます。夏の暑いさなかに熱いお茶をすするような感覚で食べていただきたいお菓子です。
タライでスイカを冷やし、扇風機をつけて、風鈴の音を聞きながら、縁側に座って…。そんな日本の田舎の風景が似合うお菓子です。
8月のお菓子と聞いて夏らしい涼しげなものを想像していたら、その想像の遥か上を行く「吹雪」という名前が付けられていました。真夏なのに「吹雪」と名付けられたそのお菓子は、「冬の寒さを思い起こし涼しさを呼ぶ」との粋なコンセプトで作られています。
梅ほどの大きさに丸く形成され、白い粉雪を思わせる粉砂糖が黄色味を帯びた生地全体にまぶされています。雪の降る夜、雪に埋もれたほのかな灯を見ている…そんな涼しげな情景が浮かんできます。
生地に練りこまれた醤油が隠し味。お饅頭のような食感と同時に広がる香ばしい香り。醤油の塩分と粉砂糖が絶妙に溶け合い「甘じょっぱい」昨今流行りの塩見の効いた味わいです。中に包み込まれた餡は主役かと思いきや、程よい甘さで主張しすぎず全体を引き立てます。若者には流行りの風味、年配者には懐かしの味わい。年齢問わず楽しめる、お盆の時期に親戚一同でいただくお茶菓子にぴったりです。
9月の美鈴さんのお菓子は「流鏑馬」。「やぶさめ」と読みます。
猛暑の8月が過ぎたこの頃、鎌倉ならではの行事「流鏑馬神事」が行われます。駆ける馬の上から矢を射る勇壮な姿が毎年9月に鶴岡八幡宮境内で見られますが、それに因んで命名されたのが9月のお菓子「流鏑馬」です。
長四角にカットされた求肥を青竹の串に刺しただけのシンプルなお菓子ですが、さすがは美鈴さん、きっちりと仕事をしています。鶏卵の黄身と白並餡を混ぜ込んで仄(ほの)かに黄色味を帯びた流鏑馬と、鶏卵の白身と小豆の餡を混ぜ込んだ薄紫の流鏑馬の二種がございます。柔らかな求肥の食感が優しい甘さと調和して、それでいてそれぞれ少しずつ風味が違います。流鏑馬神事の勇壮な姿とは正反対なイメージの味ですが、それもまた良し。
美鈴さんの和菓子で鎌倉ならではの季節の移り変わりを楽しんでください。
「羊羹」で有名な美鈴さんですが、10月には「栗羊羹」が季節のお菓子で登場します。この栗羊羹が、美鈴さんで人気を誇るスタンダードな羊羹以上に絶品なんです。スタンダードな濃紫の羊羹に栗が入っている、いわゆる「栗羊羹」をイメージしていましたが、包みを明けて嬉しいびっくり!なんと羊羹が橙色ではありませんか!橙色に淡く輝く半透明の羊羹の中に、ゴロゴロと甘く煮た栗がふわふわと浮かんでいる様は見事に私たちの羊羹の概念を裏切ってくれます。
蜜で煮た栗は甘いだけでなく、栗の味も存在感十分。寒天を練りこんで半透明に橙に光る練羊羹は秋の光を透かしてとっても綺麗です。本格的な秋へと移り変わる鎌倉の山々を眺めながら、熱い日本茶とともにいただきたいお菓子です。
姫柿といえば、秋にコロコロと小さな柿の実をつける盆栽の人気品種の一つですが、美鈴さんの11月限定和菓子もその姫柿を模した、その名もズバリ「姫柿」。
砂糖をまぶした小豆の餡の中に、もっちりした求肥(ぎゅうひ)が隠れています。ぽんっと口の中に入れてひと噛みすると、想定していなかった歯応えに「おや…?」と嬉しい少しの驚きを感じさせてくれます。こういうちょっとした心遣いの積み重ねが美鈴さんを美鈴さんたらしめているのかもしれませんね。
女将さんの話によれば、美鈴さん界隈を小泉淳作さんがよくよく散歩されていたようで、小泉淳作邸に来客があったり、手土産をお持ちになる場合などに美鈴さんのお菓子を利用されたんですね、きっと。鎌倉・建長寺法堂の天井画「雲龍図」や京都・建仁寺「双龍図」などの大作で知られる小泉淳作さんがデザインした包装紙なんて、さすがは美鈴さんですね。
小泉淳作さんは作家の大佛次郎さんとも懇意にされていて、旧大佛次郎邸は美鈴さんのすぐ近くにあります。大佛次郎邸は現在「大佛茶楼」となって土日にはゆっくりとお茶が楽しめます。もちろん、美鈴さんの和菓子と共に。